子育て中歯科医の雑記帳

30代前半の歯科医師です。2歳ほどの息子の育児中。育児情報・お出かけ・美容ダイエット・歯について。

知っていますか?子どもの歯ブラシ事故の実態

みなさんは「杏林大病院割りばし死事件」を覚えていらっしゃいますか?1999年7月10日、夏祭りで綿菓子を食べていた当時4歳の男児が、その割りばしをくわえたまま走り転倒し、割りばしでのどを深く突き刺し、その後病院を受診したものの最終的に死亡してしまった、という事故です。

当時このニュースを知ったとき、私はまだ中学生でした。「割りばしをくわえさせたまま走らせる親が悪い、目を離さずそばで見ていなくちゃだめ」と思っていた記憶があります。

なぜ、今になってあのニュースを思い出しているかというと、目の前に、歯ブラシをくわえたまま走り出す息子がいるからです。

 

子どもに歯磨きをさせる難しさは異常

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もうすぐ2歳になる息子に対して「制御不能だ」と感じる瞬間は多々あり、その中のひとつがこの「おとなしく座って歯磨きをしない問題」です。息子の歯磨き中は絶対に大人が目を離さずにそばにいますし、危険な動きをしたら制止しますが、いくら言っても歩き回ったり遊んだり、ひどい時には別室に向かい走ってしまいます。

夫婦そろって歯科医師であるためか、「子どもの歯磨きはバッチリ完璧だね!」と言われることもあるのですが、全くそんなことはなく、毎晩歯磨きを嫌がるor遊びながら磨く息子に困り果てているのが現状です。

 

誤った歯磨きを放置するおそろしさ

盗んだバイクで走り出す尾崎豊さんを誰にも止めることができないように、イヤイヤ期に突入した幼児は誰にも落ち着かせられない気がしています。それでもやっぱり、歯磨きは歩きながら・走らせながらさせるべきではないのです。これから、幼児の歯ブラシ事故の実態について少し書いていきたいと思います。知っていると知らないのでは、今後の意識に大きな差が出ると思いますので、どうか気に留めておいてくださると幸いです。

 

子どもの歯ブラシ事故について考えたことある?

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割りばしよりも先端がするどくないこともあり、歯ブラシの危険性は軽視されがちです。「メーカーが出している子ども用の歯ブラシなんだから大丈夫」という安心感もあるかもしれません。しかし、子どもが歯ブラシを口にくわえた状態で発生する事故は、充分致命傷になる可能性があります

2013年、消費者庁国民生活センターによる乳幼児の歯ブラシ事故への注意喚起がなされ、小児歯科学会からも 「楽しく安全に歯みがきをする習慣を身につけよう」というリーフレットが出されました。また、歯ブラシによる事故を防止すべく、さまざまな形態の歯ブラシが各企業より製造・販売されています。

しかし、2017年2月に公表された東京都商品等安全対策協議会の報告書を見ると、子どもの歯ブラシによる事故件数は…

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2011年以降ほぼ横ばいで、減少していません。これはなぜでしょうか。

私が考えるに、今ここでこのブログを読んでくれているかたの大半が

  • 2013年、消費者庁国民生活センターによる乳幼児の歯ブラシ事故への注意喚起がなされた
  • 小児歯科学会から安全な歯磨きについてのリーフレットが出された
  • 2017年、東京都商品等安全対策協議会が歯ブラシの事故件数に関する報告書を発表した

という事実自体、知らなかったのではないかと思います。 そうです、いかに実態が調査され、その危険性についての報告がなされようと、小さな子供をもつご家庭にその報告が伝わる機会は乏しく、歯磨きの安全管理の考え方が浸透しきっていないのが現状なのです。

 

歯ブラシは人生の相棒

筋トレにダンベルが欠かせないように、歯ブラシは本来、虫歯予防に欠かせない最高の相棒のはずなのです。しかし、このように小さな子どもの外傷の原因となってしまうことはとても痛ましく、見過ごすことができない悲しい事実だと感じます。

歯科医院で歯科医師が歯ブラシ事故についてお話しすることは、割と稀かと思います。歯ブラシ事故の現状について知っていても、その情報を臨床の場で患者さんに伝えるかどうかは、歯科医師個人個人の自由です。正直、治療に直接関係があるわけでもないし、お金になる話でもないので、しない人の方が多いんじゃないかなと思います。

このようなとき、一歯科医師の私ができることは限られていますが、それでもこのブログで呼びかけることくらいはできる、やらないよりはマシだと思い、この記事を書くことにしました。

 

アンケートで実態調査!

この記事を作成する前に、今回もまたツイッター内でアンケートをとらせていただきました。「実際大人しく安全に磨かせてくれる子どもってどれくらいの割合なの?」を知るためのアンケートです。ご協力いただいた方々には感謝しております。

行わせて頂いたのは、このような内容のアンケートです。

 

アンケートの対象年齢を1~3歳のお子様に限定したのは、0~5歳のうち、1~3歳の事故件数が全体の90%以上を占めるためです。

結果を円グラフでまとめたものがこちらです。

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 約70%のお子様が、歯ブラシ中に「立つ」「遊ぶ」「走る」などの行動をとり、大人しくしていない、という結果になりました。

私はこの結果を見て、「よかった、我が家だけではなかった…」という安堵感と、「これはいかん!」という焦りで心がいっぱいになりました。でも、大人しくさせるなんて本当に無理ですよね!特にイヤイヤちゃんはさ、もう、いろんなことがいろんな意味で無理ですよね…(遠い目)

 

なぜ歯ブラシ事故は1〜3歳で多いの?

ここであたらめて、年齢月齢別の歯ブラシ事故の発生率をみてみましょう。

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グラフを見ると、

  • 1~3歳までの事故が全体の90%以上を占める
  • 一番事故が多い時期は1歳後半(6~11か月)で、全体の30%を占める

ことがわかります。なぜ歯ブラシ事故は1~3歳で多いのでしょうか。乳幼児の解剖学的な特徴からご説明します。

 

乳歯は、生後 6~9 か月頃に下の前歯から生えてきます。個人差が大きいのですが、生後 1 年を過ぎる頃には、上下の前歯が 2 本ずつ、合計 4 本の乳歯が生えそろうのが平均的な発達です。つまり、

1歳頃から子どもに歯ブラシを使う機会が増えてくる

ということがいえます。

また、ちょうどこの歯ブラシを使い始める1歳頃から、赤ちゃんは「つかまり立ち」ができるようになり、1歳半までにほとんどの子どもが「ひとり歩き」するようになります。なので、

1歳頃から歯磨きをしながら立つ・歩くようになる機会が増える

ともいえます。

そして、

歩き始めたばかりの赤ちゃんはとても転びやすい

です。「慣れていない・運動機能がまだ未熟」などの原因がありますが、幼児はもともと転びやすい体型をしているのです。これは、身長に対して頭が大きいためです。3歳の身長は成人の6割弱ですが、頭囲は大人の9割の大きさに達しています。幼児は年齢・月齢が低いほど重心が上方にあり不安定なため、

幼児は大人と比べて転びやすい体型をしている

ということです。

今挙げた要素をまとめます。

  •  1歳頃から子どもに歯ブラシを使う機会が増えてくる
  •  1歳頃から歯磨きをしながら立つ・歩くようになる機会が増える
  • 幼児は大人と比べて転びやすい体型をしている
  • 歩き始めて間もない低年齢児は特に転びやすい

この4つの要素が、「歯ブラシ事故が1〜3歳で多い」理由として背景にあるのです。

 

まとめ

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「歯ブラシの使い方」というと「いかに歯の汚れを落とすか」を重要視しがちですが、それよりも「いかに子どもの安全を守るか」がまず最も大切なことだと私は思います。

歯ブラシは毎日使うものだからこそ、正しい使い方で安全に付き合っていってほしいです!ちょっと尻切れな記事になってしまいましたが、これから歯ブラシ事故について、

  • 事故はどのような状況で起こるのか
  • 事故の具体例
  • 事故を防ぐためにできる対策は?

などのお話を続けさせていただきます。

 

参考文献:

子供に対する歯ブラシの安全対策-東京都商品等安全対策協議会報告書-平成29年2月 東京都生活文化局